アセンションのピークと言われる午前10時となった。
この瞬間に天変地異が起こるとはハナから思っていなかったが、私は次元上昇するかもしれないという重大な時を、偶然カイロのアポが入っていたのをいいことに、クリニックのベッドの上で過ごそうと企てていた。
クリニックに入ると受付のマリアさんはちょうどおらず、いきなり鬼軍曹が登場。今日も目深にキャップをかぶり、この寒空に半袖Tシャツだ。
「腰の具合はどうだ?」「はいっ。まったく痛くありません」
「だろ?オレってすごいだろ?」「…はいっ」
元ベースボールプレイヤーと以前に書いたが、ドクター・ゴードンは数年前までドジャースで活躍していたらしい。
ベッドのある暗い個室に案内される。ウエスタンブーツを脱いでいると、「そのブーツいいね」と鬼軍曹にほめられた。
続けて彼は静かに問いかける。「で、あれから毎日、オレの教えたエクササイズはやっているのか?」
まったくやっていない。うつむきながら首を横に小さく振ると、鬼軍曹は突然声を荒げてどなった。
「Shame on you! Shame on you!」
そんなふうに罵倒しなくても…。いちおう私、患者なんですけど。
シャウトすると軍曹は豪快に笑った。なんか今日は軍曹、テンションが高い。
電流マッサージの間に瞑想しようと思っていたのに、電流がいつもより強くて熱い。心臓がバクバクしてきた。うーん、これは癒されているのか?
電流が終わると軍曹はマッサージを施し、続けて首を左右にゴキッ、グキッ。厚い胸板を押し付けて背骨もバキッ。へなへなになったところで、マットの上に導かれる。
「うつ伏せになって。まずはこれを30秒、3回。カモン、カウガール!」
ウエスタンブーツはいてたからって、カウガールとは…。
「次は、横になって右腕を上げ、腰を上げる。左右30秒ずつ」「立って腰を落としてそのまま30秒、3回」
次々と指示が飛び、もうこちらは汗だくだ。ノリノリの軍曹は、バッドをかまえるポーズを取り、「キミはイチローだ!」と叫びながら、私のお腹にボールを打ち込むふりまでした。
激しい筋トレの時間が終わった。
「キミはグッドシェイプだが、筋肉がまったくない。オレはキミの筋肉が見たいのだ」と激励(?)され、クリニックを去る。ああ疲れた。治療という名のブートキャンプ。
時計はすでに11時をまわっている。アセンションのピークタイムは過ぎた。
アセはかいたが、アセンションはどうなったのだ?
スピリチュアルどころか、まったくの筋肉タイムだったではないか。
例の「アセンションQ&A」には、「アセンション後は身体が軽くなり、宙に浮いたように感じる人もいる」とあったが、正直言って今、身体は最高に重い。明日には新たな筋肉痛が私を襲うだろう。
だけど、良かった。身体、酷使し続けてきたもの。これを機会にちゃんと自分の身体に向き合い、身体を慈しもう。
そう、健全な魂は健全な肉体に宿る、だ。
瞑想とか言ってないで、逆にもっと身体、鍛えようかな。
アセンションで身体がなくなってしまう前に。