仕事帰り。デザイナーの友人と待ち合わせをしたものの、フィアットを扱うそのクライスラーのディーラーに早めに着いた私は、客待ちで立っていたセールスのお兄さんに導かれるまま、先に建物の中に入ってしまった。
その黒人のお兄さんに連れられて、4階のフィアット売り場へ。エレベータを降り、そこで最初に見たフィアットときたら!
「かわいい~!」
もうハートをズキューン。衝撃だった。
こんなかわいい車がこの世に存在するなんて。
この天真爛漫な満面の笑み。セキセイインコみたいなほっぺたまでついている。
子どもが描いた絵のような、いかにも「くるま」という形もキュートだ。
えーっ、何色がいいかな。迷うなあ(←もうすっかり買う気満々)。
先ほどの寡黙なお兄さんはクライスラー担当だったので、フィアットのことはまったくわからず、私の傍らにはいつの間にか、デビッドさんというフィアット担当にすりかわっていた。イタリア車のセールスにふさわしい、気の良さそうなラテン系の人。
やがて友人もやってきて、フィアット話に花が咲く。
デビッドさんに私は矢継ぎ早に質問を浴びせる。
「フィアットって世界で2番目に小さい車なんですよね?」「駐車場に入るかどうか、それだけが決め手なんです」「だから、実際にうちの駐車場に入れてみたいんですが、いいですか?」。
デビッドさんは「もちろん結構ですよ!」と快く答え、今からでも行こうと提案してくれる。
フィアットくんも「つれてってくれるよね?」と言ってるみたいだったし(←すでに気持ちが通じている)、そうしたい気持ちは山々だったが、暗い中、あの忌まわしい駐車場にこの車で今から行って悪戦苦闘することになったら嫌だ。休日に改めて伺うと伝え、その日は帰ることにした。
その週末。約束の10時にディーラーを訪れ、さっそく試乗。
色は最初に見たライトグリーンに決めていた。インテリアはクリーム色。50年代アメリカの冷蔵庫やラジオを彷彿させるノスタルジックな色とデザインが、フィアットの魅力を倍増させている。
さあ、ライトグリーンのフィアットで、我が家までデビッドさんと友人を乗せて出発だ。
普通のガソリン車なので、プリウスみたいに静かではないけれど、乗り心地は悪くない。運転席からの視界も広く、小型車という感じがしない。ゾウやイヌたちに囲まれながらも、リスなフィアットはフリーウェイも難なく走ることができた。
そして懸案だったアパートの駐車場にも、デビッドさんと友人が見守る中、見事一発で出し入れすることができたのだった。
フィアットくん、私はあなたに決めました。
これからどうぞよろしくね。
うぐいす餅のようなフィアットくんは、とぼけた笑顔で「うん、いいよ!」と言ってくれたのだった。
(つづく)