細長い店内には天使を象った人形がところ狭しと並んでいる。
奥から白人のご夫婦が出てきて、愛想の良い笑顔で私を迎えてくれた。
天使の絵を見に来ましたと言うと、おじさんがこっちだよと手をかざす。
カーテンで仕切られた奥のギャラリーには、画集で見たのと同じ、優しい色の天使の絵が壁いっぱいにかけられていた。
アンディ・レイキーの天使には羽がない。
顔には目鼻も口も表情もなく、いわゆる「天使」とはかけ離れた姿かたちだ。
そして、1つ1つの天使には、お腹のあたりに幾何学的なしるしがついている。
まるで1人1人に決められたDNAみたい。
もしくは、精巧に組み込まれた電気回路。
それらはゴニョゴニョと、ザワザワとうごめいているようで、なにか生命めいたものを感じさせる。
立体的に描かれた力強い線と煌く色。
天使たちは、きれいというより、パワフルだ。
たとえるなら、お米の胚芽部分。
生命の素とでも言うのだろうか。そう、ピュアな“何か”。
四方八方から天使たちに話しかけられて、その対応に私は忙しかった。
店のご夫婦はニコニコしながら、後ろで見守ってくれている。
私は、ピンクの色調の大きな絵に心惹かれて、ふと立ち止まった。
そして、なぜか涙があふれ出して、止まらなくなってしまった。
「いいですよ。泣いてくださって」とふたりに言われ、ますます涙が流れてきた。
天から見下ろしている無数のピンクの天使たちが、口々に私に言葉をかけてくれているように思えたのだ。
ここを訪れる人はみな、レイキーの天使の絵を見て、故人や愛する人に思いを馳せ、涙し、そしてその後の人生を変えるのだという。
「慈悲の愛(Unconditional Love)ですね」と奥さんが、人懐っこい笑顔を浮かべながら、私の胸元を指差して言った。
そうだった。その日私は、ローズクオーツのネックレスをしていた。
ローズクオーツのメッセージは“慈悲の愛”らしい。
「あなたのネックレスも、この絵も同じピンク色ですね」
「無償の愛を与えなさい」。
私が心惹かれたあの絵の天使たちは、私にそう教えてくれたのかもしれない。
そして、その1年後にも、東京から来た妹と一緒にベンチュラの店を訪ねた。
そのときは、アンディさんが店に来るというので、妹にも記念になっていいなと思って出かけたのであった。
それにしても、今度は高田かあ。
本町のレコード多田金と言えば、昔、キャンディーズの「春一番」を大音響で鳴らして商店街じゅうに響き渡らせていた店だ。(←「団子三兄弟もね」と妹)
そんなところでレイキーの展覧会があるなんて、時代は変わったんだなあ。
日本に帰って東京の妹を訪ねると、妹はさっそく例のDMに載っている、多田金でのレイキー展の告知記事を見せてくれた。
「じゃあ、行ってくるね。ありがとう」
そして私は両親の住む高田に向かった。
(つづく)